Jealousy × Jealousy<最終話>Jealousy × Jealousy<最終話>「ウニ、そろそろお兄ちゃん起こしてきて」 オモニはちょっとためらいながらそう言った。 「いえ、私が行きます」 揺は涙を慌てて拭いて微笑んだ。 彼女の表情にもう迷いはない。 「そう。じゃ、揺ちゃんお願いね。あの子寝起き悪いから先に食べてるからって伝えておいて」 オモニはそういうと左眉をピクッと上げた。 「はい。」 揺は元気にそう答えると勢いよく階段を駆け上がった。 ドアをそっと開ける。 ベッドを見るとビョンホンが腕枕をしてじっと天井を見つめていた。 「ビョンホンssi・・・」 彼の眼が揺にはとても寂しそうに見えた。 無性に彼を抱きしめたくなった揺はベッドに駆け寄った。 「揺・・」 慌てて起き上がる彼の胸に揺は飛びついた。 そして彼の頬を両手で包むとじっと彼を見つめそっとキスをする。 「揺・・」 「ビョンホンssi・・私・・謝らない。食べたい時に食べたいものを食べて笑いたい時に笑う・・・それが私だから。そんな私をあなたが愛してくれたんだって思ってるから・・だから・・変わりたくない。でも、あなたとだったらご飯まずくても、どんなに辛くても笑顔でいられる。それが私だと思う。ごめんね。こんな返事しかできなくて。それじゃ・・・そんな私じゃダメなのかな。」 揺の目は不安と涙でいっぱいだった。 「揺・・・それじゃ俺といるといつもまずいもの食べてずっと辛いみたいじゃないか。」 そういうとビョンホンは苦笑いした。 「ビョンホンssi・・」 「俺、何やってるんだろうな・・・。昨夜から、揺に初めて会った時のことを思い出してたんだ。 彰介の家で初めて会ったあの夜のこと。大勢のゲストがいるホームパーティーでさ、中には手持ち無沙汰な人もいて。つまらなそうにしていると君が声をかけてた。飲み物をサービスして。君が笑って話しかけると今までつまらなそうな顔をしていた人の顔がぱっと笑顔に変わるんだ。あの時、俺はそんな君を好きになってそんな君だからずっと一緒にいたいって思ったのに・・・・。全く正反対のことを望むなんて・・どうかしてたよ。欲張りにもほどがあるな。今までオッパオッパってうるさかったウニが急に離れてちょっと寂しかったのかもしれない。揺だけはずっと俺だけの揺なのに・・って思うと人に分けてやるのが惜しくなっちゃってさ・・」 「ビョンホンssi・・・いつからそんな欲張りになったの?」 揺は泣きながら笑って言った。 「揺と会ってから」 ビョンホンはそういうと揺をしっかりと抱きしめ、ゆっくりとキスをした。 「うそ。昔から欲張りだったでしょ」 揺は上目遣いにビョンホンをじっと見つめた。 「ばれたか。でも何でわかった?」彼はばつが悪そうに頭をかいた。 「顔に書いてあるもの。あなたの顔は手に入らなくていろんなものを諦めてきた顔じゃないわ。欲しいものを手に入れるためにいっぱい努力してきた顔。」 「ふ~~ん。揺は人相も見られるんだ。」 ビョンホンはちょっとからかったようにそういうと照れくさそうに自分の頬をなでた。 「まあね。あなたの顔限定だけど。私、あなたと会ってから思うんだ。欲張りって悪くないなって。もし、私が欲張りじゃなかったら、あの時にあなたのことを諦めてただろうし。生きたいと思わなかったら今ここにこうして元気でいられないでしょ。「欲せよ。さらば与えられん」ってとこかな。だから欲張り大歓迎。私の愛は全部あなたにあげるって宣言しておくわ。それでも足りなきゃ「もっと頂戴」って言って。」 「じゃ、もっと頂戴」ビョンホンが言った。 「晋作さんとも・・仲良くするから」 「何それ。何だか子供の喧嘩の仲裁してる気分がしてきたわ。」 揺は大笑いした。 「笑うなよ。そもそもの原因はお前なんだから」 ビョンホンが口を尖らせて言った。 「本当に可愛いわね。」 彼の尖った唇をつまんで揺は笑った。 「可愛いって言うなよ。何だか子ども扱いされてるみたいで嫌なんだ」 「だって可愛いんだもん。う~~ん。Cuteじゃなくてcharming って意味でね。じゃ、仲良くするご褒美にもっといっぱいあげよう」 揺はそういうと彼の顎をそっとあげてゆっくりとキスをした。 「今日の朝ごはんはいっぱい食べようね。」 「最高に幸せな朝だ・・・揺お腹すいたよ。そろそろ下に行こうよ。・・・揺?」 ビョンホンがふと腕の中を見ると 生まれたままの姿で横たわった揺はすやすやと寝息を立てている。 朝日を浴びた穏やかで幸せそうな寝顔はとても美しかった。 「おやすみ。僕の女神様」 彼は優しく微笑んで彼女の髪を撫でながらそう一言。 そして額にそっとキスをして静かにベッドをすり抜けた。 「朝っぱらから幸せそうな顔しやがって・・・」 ニコニコ微笑みながらご飯をほおばるビョンホンを晋作は呆れたように眺めた。 「揺のやつ、具合悪いんじゃないよな。」晋作が訊ねると 「元気です。至って。全身チェック済みです。ただ昨夜眠れなかったみたいだから。」 恥ずかしげもなく堂々とにっこり笑って彼がそう言い放ったのが可笑しくて皆一応に食後のお茶を噴出しそうになった。 「ビョンホン・・お父様とお母様の前でしょ。少しは慎みなさい。」 オモニが苦笑いする。 「いや、いいことです。仲良きことは美しき哉ですよ。お母様」 幸太郎がお茶をすすりながら感慨深げにそうつぶやいた。 「そうね。昨夜みたいに死にそうな顔していた方がよっぽど心配ですわ。」 綾もケラケラと笑う。 「で、昨夜の痴話げんかの原因は何だ」晋作が興味津々な顔で訊ねた。 「ん・・・しいて言えば・・愛が溢れすぎちゃったってことかな」 メロメロの笑顔で嬉しそうにつぶやくビョンホン。 「・・・・・さ、片付けようか。」 あまりののろけぶりにばかばかしくなった皆は彼を残して席を立った。 「?」 ビョンホンの口はまだご飯とおかずでいっぱいだった。 「飛行機何時でしたっけ。」 庭でタバコをふかす晋作に歩み寄ったビョンホンはそう切り出した。 「え?3時だったかな。吸うか?」晋作はタバコの箱を彼に差し出した。 「あ、どうも」 ビョンホンが一本取ると晋作がライターで火をつける。 黙って遠くを見てタバコを並んでふかす二人。 「晋作さん・・・ウニのことよろしくお願いします。」 ふとビョンホンがそうつぶやく。 「え?何だよ。藪から棒に」 「あいつ・・あんたが好きみたいだから。俺は・・反対はしません。仲も取り持たないけど・・。ウニとあなたの気持ち次第でいいと思ってます。」 「お兄ちゃん、成長したな。ついに妹離れか?」 晋作がからかうように言った。 「離れませんよ。ウニはたった一人の大切な妹ですから。あいつの幸せを見届けないと天国の父に合わせる顔がありません。これからもずっと見守るつもりです。ただ・・・あなたならあいつを託してもいいかなって思っただけです。」 「おっ?お前、俺に惚れたな」からかう晋作。 「やめてくださいよ。ただ・・悪い人じゃない。揺の命の恩人だし。・・・揺は僕がもらったからちょっと可哀想だなって思ったんですよ。同情です。同情。」 「またまた・・・照れちゃって」 晋作は嬉しそうにビョンホンの腕を小突いた。 「だから・・違いますって」 また二人でじゃれてる・・・・ 揺は不思議な気持ちでベランダから下の二人を眺めていた。 何で私が焼きもち焼いてるんだろう。 じゃれあう二人をちょっと羨ましく思っている自分が可笑しくて揺は一人苦笑いして頭をかいた。 そして思いついたようにスリッパを脱ぐと二人に向かって投げつけた。 「痛てっ」頭を押えた二人はベランダを見上げた。 「揺!お前・・・」 揺はにっこりと笑って二人に手を振った。 THE END |